
実践
25. 小さな騎士道
〈ブルグミュラー25の練習曲より〉
この曲で学ぶこと
まとめ ③
- 形式:A-B-A-C-A-Finaleのロンド形式
A,B,C,Finaleそれぞれの描写を明確に
- テンポの維持
音型が変わるとテンポ感が変わる。要メトロノーム
- 〈楽譜どおり〉の徹底


A-B-A-C-A-Finaleのロンド形式
A,B,C,Finale,それぞれを明確に描写します。
A:主題であり,この曲の軸となる部分で,まずAの練習から始めます。
B:4小節だけの短い,Aにはさまれたモチーフです。
C:中間部で景色の変わるモチーフです。Cについては下に詳述しますのでご参照ください。
Finale:この曲の,そしてこの25の練習曲集のフィナーレを飾る箇所です。この25曲の中で唯一のff(フォルティッシモ)が最後に出てきます。ここは思いきり弦を鳴らしてください。
テンポの維持
テンポ設定の仕方
① この曲の中で技術的にもっとも難しい箇所はFinaleの42〜43小節なので,まずここが確実に弾けるテンポを探ります。ここは音が細かく速いだけでなく,cresc. assaiで2小節かけて猛烈にクレッシェンドしなければならない箇所なので,少し余裕のあるテンポで決めます。
② 決まったら,A〜Bをそのテンポで 弾きます。
③ Cは空気が変わるところであり,テンポは厳密でなくてかまいません。音楽的な優雅さを優先します。ただし,あまりかけ離れたテンポにならないよう留意します。Cの後のAで確実に元のテンポに戻します。
④ Finaleの出だしはテンポが走りがちな音型になっています。ここはメトロノームで厳密に合わせて弾きます。33小節目で走ると40小節以降テンポを維持することが困難になります。
〈楽譜どおり〉の徹底
楽語,記号がかなり細かく振られています。これを一つひとつ丁寧に音にしていきます。
特にスラー,クレッシェンド,長いアクセント,スタッカートは見落としがないよう,しっかり読譜します。
この曲のタイトルについて
「La Chevaleresque」というのがこの曲のオリジナル(フランス語)のタイトルになります。
Chevaleresqueとは「騎士道の」「騎士道にかなった」という意味の形容詞です。
騎士道とは【中世ヨーロッパの騎士階級の精神的規範。キリスト教および団結精神の影響下に発達,敬神・忠誠・武勇・礼節・名誉,および婦人への奉仕などの徳を理想とした】(大辞林4.0より)
そこにLaという定冠詞がつき,直訳としては「騎士道精神的なもの」という形容詞の名詞的用法になります。ここで目を引くのは定冠詞「La」が女性形単数ということです。
本来,騎士道とは男性の世界のものでしょう。ブルグミュラーの時代ならなおさらそうだったと思います。そこにあえての女性定冠詞。ここに筆者の目には,正義感の強い,男まさりなあねご肌の少女の姿が見えてくるのです。
この〈25の練習曲〉には子どもがたびたび描かれています。「牧歌」「狩」「清流」から想像するに,牧畜のさかんな山あいの村,セキレイやツバメが飛び交うところで、子どもたちが集って日々を過ごす,そのような情景が25曲をとおして描かれているのではと思います。
25番のこの曲で描かれるLa Chevaleresque,騎士道精神に満ちた少女。日頃は村の子どもたちを従えて,遊んだり,世話をしたり,物ごとの道理を教えたり,ときに幼い子たちの喧嘩に割って入って叱りつけたりなだめたり,そんな役割を任されているのかもしれません。そのあねご肌の少女が時折ふと見せる女性らしいたおやかさ,それがCの部分で描かれているのではないかと想像します。
むろん,この想像が正解かどうかはわかりません。
が,想像は自由ですし,想像なしに表現することはできません。
この曲には長い間「貴婦人の乗馬」というタイトルが付されてきました。そのため最初の部分(A)は馬の歩く足音と解釈されてきたのですが,それだとブルグミュラーの指示した♩=152には合いません。騎士道と乗馬は無関係ではありませんが,Chevaleresqueは精神的な意味合いが強い言葉で,足音といった物理的な音の表現とは,やはり合わないように思います。
楽譜に書かれていることを疑いなく全て音にしてみる。
そうすると見えてくるものがたくさんあります。想像力をかき立てるものもたくさんあります。
音楽の表現に必要なのは,本当はそういうものなのだと思います。
25曲の勉強,お疲れさまでした。
文責:滝 和子(Notallena代表)