
実践
19. アヴェ・マリア
〈ブルグミュラー25の練習曲より〉
この曲で学ぶこと
1. 打鍵の再確認
- 脱力,重力,指先にかかる重みの自覚
2. 和音のバランス
- パート別の練習方法
3. ペダルの効果
- たっぷり底まで踏み込む箇所
- うすく踏む箇所
- 空気を変える踏み方=ソフトペダルの活用=

1. 打鍵の再確認
- 脱力、重力、指先にかかる重みを自覚する
美しく弾こうと思うとかえって緊張して手や腕が硬くなってしまい,意に反してかたい音を鳴らしてしまいがちな曲があります。「アヴェ・マリア」はその代表のような曲です。
ここで,打鍵,脱力,重力をおさらいしておきたいと思います。

出だしの前に,一度1拍目の音を打鍵してみます(下の譜例参照)
① まず,指先が手の重みの圧を感じていることを確かめます
② その後,ひじ→上腕→前腕の順に,余分な筋緊張が入っていないか確かめます
③ 確認できたら,1小節目から弾いていきます。一音打鍵するごとに,指先を軸にひじを外側に回転させるように押し出します。こうすると腕〜手に筋緊張が入らず,ほどよく脱力した状態を維持することができます。
指先には常に手の重みがのり,圧がかかっていることを確認します。

脱力を維持したまま弾けたら,その脱力の状態を腕と手で覚えておきます。
そしてこの曲を弾くときは,最初の音を打鍵する前に,その状態を意識的につくります。
2. 和音のバランス
和音の構造
和音は原則,高い方の音から「ソプラノ」「アルト」「テノール」「バス」呼びます。
混声合唱と同じパートの呼び方です。
和音の外側にあるソプラノとバスを「外声(がいせい)」と呼びます。
内側にあるアルトとテノールは「内声(ないせい)」と呼びます。
外声は和音の型枠を作り、内声はそれに色を付ける役割をします。

基本的な弾き方
外声(ソプラノとバス)はっきりと,やや強めに打鍵
内声(アルトとテノール)やや控えめに打鍵
基 本的な練習方法
① ソプラノ抜きで、アルト・テノール・バスの3パートだけで弾いていきます。バスに手の重みを少し重めにかけます。ハーモニーを丁寧に聞き取ります。

② ソプラノだけで弾きます。主旋律としてレガートで弾きます。指づかいは楽譜どおりで。

③ すべてのパートを合わせて弾きます。外声をやや際立たせるように弾きます。

3. ペダルの効果
ペダルの踏み方① ダンパーペダル
ダンパーペダルは音を響かせるためのペダルで,足許のペダルのうち,右側にあるペダルです。
踏み方は大きく分けて〈旋律ペダル〉と〈和声ペダル〉の2種類があります。
旋律ペダルは旋律をなめらかに奏でるためのペダルです。
和声ペダルは和音を響かせるためのペダルです。
旋律ペダルは打鍵した直後に踏み、和声ペダルは打鍵と一緒に踏みます。
この曲では〈旋律ペダル〉を使います。
下の譜例は「アヴェ・マリア」の出だしの部分です。
ふつうはペダル記号はこのように音符の真下に書かれています。

が,実際にペダルを踏むのは、打鍵の直後です。
打鍵する瞬間はペダルを離します。(×印)
音をにごらせないためです。
これが「旋律ペダル」の基本です。

たっぷり底まで踏み込む箇所
長い音や大きな音、音をたっぷり響かせたいとき、ペダルを底までしっかり踏みます。
(下の譜例の青い○印)

うすく踏む箇所
ペダルを数ミリ程度にうすく踏む方法で、実際の演奏ではこの踏み方の方が多いです。
音がにごり過ぎず,旋律が美しくつながるのがこの深さ(浅さ) と言えます。
ちなみに、ペダルの可動域はおおむね2cm程度です。
1cmほど踏む方法を「半ペダル」と呼ぶこともあります。
ペダルの踏み方② ソフトペダル
足許のペダルのうち、左側のペダルを〈ソフトペダル〉と言います。踏むと音が小さくなります。
アップライトピアノの場合、ソフトペダルを踏むとハンマーが弦に近づき、可動域が狭くなることで音が小さくなります。
グランドピアノの場合、ソフトペダルと踏むと鍵盤の位置がほんの少し右側にずれ、3本ある弦のうち1〜2本だけハンマーが打弦します。音が小さくなるだけでなく、音色も変わります。
1本だけ打弦することから「Una Corda」(ウナコルダ/1本の弦という意味)という言葉がよく使われます。
ソフトペダルは、打鍵より先に踏みます。
1. 音を小さくするために使う

2. 音色を変える・空気を変えるために使う
音色・空気感を変えるために使うときは、打鍵は少し強めにします。

ペダルのこと
ペダルの深さ
ペダルの深さは、ダンパーペダル(右側)もソフトペダル(左側)も2cm程度です。
ダンパーペダルは踏み込みが深ければ深いほど,弦の残響も長くなります。
ソフトペダルは(グランドピアノの場合),足の裏でわずかに触れただけでも音色がまったく変わります。
ペダルは〈耳で〉踏む
「ペダルは耳で踏む」という言葉があります。
打鍵とペダルのタイミングを合わせて音を美しく響かせるのは簡単ではありません。
ペダルがうまく効いているか,確かめる手段は「耳で確かめる」のみ。
そしてペダル上達に必要なのは「とにかく使う」こと。
いい音を求めて,どんどん使ってみましょう。