
実践
12. さよなら
〈ブルグミュラー25の練習曲より〉
この曲で学ぶこと
アーティキュレーション
- 素速く安定した正確な打鍵のために
劇音楽風の形式
- 序曲風のIntro


アーティキュレーション
素速く安定した正確な打鍵のために
ピアノ曲には,聞く人も,弾く人自身をも圧倒するような素速いパッセージがたびたび登場します。
たとえば下の楽譜はそのひとつです。(Chopin, Etude Op.25-11より)

しかしどれほど複雑で困難に見える曲でも,ピアノ曲は作曲者自身がピアノを弾きながらピアノを弾く人のために作っていますので,基本的に人の手で弾けない曲はありません。
上の譜例では,右手はシ→ソ♯→ラの音が軸になり,ポジションを移動するだけで弾けるようになっています。どういうことか,「さよなら」の譜面を見ながら説明していきます。
まずは2段目(5〜8小節)テンポが速くなる箇所から見ていきます。

音を細かく見てい くと,3連符ひとつの動きはわりとシンプルであることがわかります。
右手だけ3連符ひとつずつゆっくり弾き,音と手の動きを確認します。

次に,軸になる音を見つけます。「さよなら」の右手の場合,3連符の1つ目の音に軸があります。

軸になる音から3連符の2,3つめの音に回転するだけの構造であることを,目と手で確かめます。
細かい音の動きを,指の動き(指の付け根の関節からの動き)だけでこなすこともできると思いますが,ここでは鍵盤主体の奏法にのっとって弾き方を身につけていきたいと思います。
指主体の奏法では素速いパッセージの弾きこなしに限界があり,個人差も大きくなります。
鍵盤主体の奏法(ピアノ本来の奏法)であればそういった限界はありません。
細かく素速い音の連続では指が絡まりやすいので,ひとまとまりずつ区切って打鍵をスピードアップする練習をします。
まず,運指どおりに鍵の上に指先を置いておきます。
下の譜例のようにリズムを変え,手首の回転を使って打鍵していきます。
慣れるまではゆっくり練習します。慣れてきたらテンポを少しずつ上げ,限界まで上げてみます。

音を増やし て練習するのも効果的です。手首の回転だけで打鍵する習慣を手指に覚えさせます。

12小節目には上のパターンとは異なる運指が出てきます。この箇所は親指が手のひらの下をくぐる形になりますが,くぐらせたままにせず,1で打鍵した瞬間,手ごと右側にスライドしてすぐに手指を開きます。慣れるまでは下のリズムで練習し,その後本来の3連符で練習します。

17小節目からの左手はフィンガーペダルで弾きます。軸になる音がはっきり見えてきます。

本来の楽譜どおり,テンポどおり弾くときは,軸になる音をIn Beatで打鍵し,残りの音を手首の回転だけで打鍵します。手首の回転が機能していればテンポは無限に上げることができると思います。
劇音楽風の形式 〜序曲風のIntro
この曲には明らかに5小節目以降とは違う雰囲気のIntroが4小節ついています。
この場合,Allegro molto agitato(速く非常に煽るように)♩=184の速度表示は5小節目以降の本編につけられたもので,Introは独立したモチーフと考えるのが自然です。
オペラやバレエ組曲の序曲のような性格を保つIntroで,この4小節間(アウフタクトを含む)は比較的自由なテンポで弾いてかまいません。このようなIntroを持つ曲を〈劇音楽風の形式〉の曲と呼びたいと思います。
「ブルグミュラー25の練習曲」には劇音楽風の形式を持つ曲が他にも1曲あり,劇音楽についてはそちらでもう少し詳しく解説します。
