
メカニズム
1. 概論
〈必ずここから読み始めてください〉
「本場の音楽」「本物の音楽」とは
ここでご紹介するメソッドは,世界のピアノ教育現場で実際に用いられているものです。
わたしたちが「本物の音楽」「本場の音楽」と呼ぶ,そのものです。
長年日本では「日本にはクラシック音楽の土壌がない」「だから日本では本物の音楽は学べない」などと言われ続けてきました。それは今ここで終わりにしましょう。
〈本物〉はエキゾチックでも,わたしたちには手の届かない崇高なものでも,理解不可能なほど難解なものでもなく,合理的でわかりやすく誰にでも実践・習得できるものです。
ピアノが世に生まれて数百年。その頃から今に至るまで,ピアノ演奏や指導に携わる多くの人々は,この大きく複雑な楽器をいかにして扱うか,この楽器からいかにして美しい音楽を奏でるか,考えてきました。より扱いやすい,より教えやすい,より合理的な手法と理論を,この楽器と向き合い,試行錯誤を重ね,編み出そうとしてきました。
その無数の人々の集合知が,このメソッドです。
日本には「重力奏法」「ロシア奏法」「ショパンのピアノ奏法」などによって部分的には紹介されてきました。ただ日本には肝心な部分,たとえば打鍵の方法,楽譜の読み方,楽譜から音楽を構築する方法などがきちんとした形では導入されていないように思われます。
当サイトでご紹介するメソッドは,今の日本人ピアノ学習者の持つスキルを補完する形で構成してあります。
このメソッドは執筆者自身が実際に外国人の教師よりピアノを習い,海外の様々な国や地域でピアノを弾き,レッスンを受講あるいは聴講し,現地のピアノ教師や学習者,演奏家との交流の中で中身と質を確かめてきたものです。
メソッドは「ショパンのピアノメソッド草稿」をベースにし,現在実際に世界のピアノ教育現場で用いられている知識や技術を重ねて構築しています。
打鍵の違い:重力と脱力のこと
わたしたちの多くが打鍵するとき,指を指の付け根の関節(MP関節)から指を動かします。
このメソッドでは指は手首から動かします。あたかも指の関節が手首からつながっているかのようなイメージです。(実際,手のひらで隠れて見えませんが,指の骨は手首からつながっています)
指先は鍵盤の上に置いておくだけで,そこに手と腕の重みをのせて鍵を押し沈めます。
打鍵は手と腕の重み,つまり,重力をもちいて行います。
手と腕は必ず脱力しておきます。余分な筋緊張が入ると,重力の伝達を止めてしまうからです。
(メカニズム 3. 「手の置き方・使い方」に詳述)
体の使い方
ピアノは人間の体より大きく,重い楽器です。この楽器から最大限の音響を引き出すには,弾き手は全身を使う必要があります。(メカニズム 2. 「姿勢・重力・脱力」)
ピアノの音は,鍵盤の打鍵と,足のペダルでもって作られます。
そのため,足の働きは手の働きと同じくらい重要です。
手の動きと足の動きを支えるために,下腹部(臍下丹田)の働きが必要です。
ピアノ演奏には,全身のバランスがとても重要なのです。
タッチの技法
打鍵が違うので,その先の技法もかなり違うと言えます。
このメソッドでは,指の俊敏な動き以上に,タッチの技法が重要です。
タッチとは,絵画でいう絵筆のようなもので,ピアノ演奏では指先がその絵筆の役割を担います。
ピアノの音は,指先の,鍵へのちょっとした触れ加減で色合いが変わります。
打鍵の際の指先の入角度,強さ,スピード,それらの組み合わせで無限に多彩な音色を作ることができます。また,ダンパーペダルやソフトペダルが音色作りに重要な役割を果たします。
(技法 2. 「タッチ①」,技法 3. 「タッチ②」)
音楽の作り方・楽譜の読み方
楽譜には音符・休符,記号,速度指示などが書き込まれています。これはすべて読み取り,片っ端から音にしていきます。
楽譜には,明記されていることと,されていないことがあります。
たとえばフレーズ,形式,和声進行などがそうですが,これらは楽譜から奏者自身が読み取り,分析し,音にしていく必要があります。そのためのルールがあり,それを「楽典」「和声法」「対位法」などと呼んでいます。これは別途学ぶ必要があります。ここでも少しずつご紹介していきます。
(読譜 1. 「楽譜の構造」等)
練習の仕方
最近はどこも,長時間に及ぶひたすらな修行のような練習は奨励されない傾向にあります。
練習は目的を明確にし,時間を区切って集中して行うのが主流となっています。
学校に通う小中高生や働く大人は平日の練習時間は限られており,休みの日にまとめて何時間も練習することがよくあると思いますが,たとえば5時間練習するなら,30〜60分でいったん区切り,休憩を十分に取り,また練習を続ける,という方法がよいと思います。
このメソッドでピアノの基礎を作る場合,集中力をかなり必要とします。集中が切れたら休憩を取ることを習慣づけましょう。
休憩することに罪悪感を持つことも,休憩せずに長時間練習し続けることを誇ることも,すべきではありません。